動脈血栓塞栓症

症例画像1
症例画像1

肥大型心筋症(HCM)は猫で最も発生の多い心臓病であり、特にメイン・クーン、ラグドール、アメリカンショートヘア、ノルウェージャン・フォレスト・キャット、ブリティッシュ・ショートヘアー、スコティッシュ・フォールドなどに好発します。
HCMとは、心臓を構成する筋肉が過剰に厚くなることで心臓内に十分な量の血液を貯めることができず、様々な心不全症状を引き起こす疾患です。
この疾患の進行速度は個体差が大きく、症状が重症化しない限り気づかれないことも少なくないため、罹患していることを知られずに過ごしている猫も存在すると思われます。
初期にはほとんど症状を認めず、心不全に至ることで徐々に活動性の低下などの症状が出始めますが、緩徐に進行する場合は飼い主様ですら気づけないことが大半です。
心不全が重度になると、呼吸や活動性、食欲に異常を認めるようになります。
犬の心不全のほとんどでは、血液の流れが滞ることで肺が過度にむくみ、「肺水腫」として呼吸困難を呈しますが、猫の心不全では肺水腫のみならず、胸の中に水が染み出す「胸水」の貯留が高頻度に認められ、肺水腫と同様に呼吸困難を引き起こします。
いずれの場合も治療が遅れれば致死的となるため一刻も早い対処が必要となります。

 猫のHCMで問題となるのは心不全による症状だけではありません。
猫では、人間や犬と比べ血液が凝固しやすく、形成された血栓が大動脈を通って全身のあらゆる血管に詰まる危険性があります。これを動脈血栓塞栓症(ATE)といい、激しい痛みや苦痛、呼吸困難を急性に引き起こします。
ATEは、心不全のある猫ではもちろん、症状の認められないまま進行した猫でも突如発症することがあり、突然死の原因にもなり得ます。猫の動脈血栓塞栓症の多くは太ももの付け根にある太い血管で起こり、後肢や尾への血流が途絶え、多くの場合は強い痛みを伴います。
血栓が詰まった部位よりも下流に血が届かなくなるため、肉球の変色(紫色)や冷感に加え、麻痺や感覚消失なども認められます。ATEは、発症すると極めて死亡率の高い合併症であり、世界的なガイドラインでは安楽死が推奨されるほどです。日本では、諸外国と比べ、ATEの猫に対し直ちに安楽死を実施することは多くありませんが、それほど危険かつ予後の悪い合併症です。
 こういった症状を事前に防ぐためには、HCMを早期に発見することが極めて重要になります。しかし、犬と違い、猫では聴診やX線検査(レントゲン検査)によりHCMを早期に発見・診断することは困難であり、健康診断を兼ねた定期的な心臓超音波検査によってのみ心臓の筋肉の厚みを評価することが可能となります。

左の写真は心臓の筋肉が厚くなってしまった様子です。
右の写真は血栓が詰まることにより、色が変わってしまったネコちゃんの肉球の画像です。

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