膝蓋骨内方脱臼整復
膝蓋骨脱臼とは、膝蓋骨(いわゆる「膝のお皿」のこと)が脱臼してしまう整形疾患のことです。
膝蓋骨脱臼のことを獣医師はよく「パテラ」と呼称します。
パテラは小型犬でよくみられる整形疾患の1つで、多くは内側に脱臼(内方脱臼)します。
膝蓋骨脱臼の重症度は4段階に分けられます。
グレード1:膝蓋骨が用手にて脱臼、放すと正常な位置に戻る
グレード2:膝蓋骨は頻繁に脱臼、膝関節の屈伸あるいは用手で正常な位置に戻る
グレード3:膝蓋骨は常時脱臼しているが、正しい位置に戻すことが可能
グレード4:膝蓋骨は常時脱臼しており、正しい位置に戻すことができない
今回ご紹介する症例は、2歳11ヶ月のわんちゃんです。
品種は雑種、体重は5.5kg、性別は去勢雄です。
転んだ後から左後肢の跛行がみられるとのことで来院されました。
歩行検査にて左後肢の挙上~軽度の着肢がみられ、
身体検査から左後肢の膝蓋骨内方脱臼グレード3が確認されました。
また、右後肢は無症状なものの、膝蓋骨内方脱臼グレード1~2を認めました。
レントゲン検査でも左後肢の膝蓋骨内方脱臼が確認できました。
以上のことから、跛行の原因は膝蓋骨内方脱臼によるものと診断しました。
グレード3では膝蓋骨は常に脱臼しているため、手術による整復が勧められる旨をお伝えし、まずは消炎鎮痛剤と安静にて経過観察を行いました。
その後、跛行は改善するも、駆け足のときにケンケンしてしまったり、挙上が間欠的にみられていました。
間欠的に続く症状や重症度を総合し、飼い主様とご相談のうえ、手術を行うことになりました。
膝蓋骨内方脱臼の整復術はいくつかの術式を組合せることが一般的です。
今回の手術では、
・滑車溝造溝術(膝蓋骨が収まっている溝を深くする)
・内側支帯解放術(膝蓋骨を内側に引っ張る力を開放する)
・外側支帯縫縮術(膝蓋骨を内側に引っ張る力に対抗する)
・脛骨粗面転移術(膝蓋骨が付着する膝蓋靭帯を真っすぐにする)
の4つを組合せて整復を行いました。
手術後のレントゲンで膝蓋骨が整復されている(脱臼していない)ことが確認できます。
手術後は数日の安静と包帯管理のために入院が必要となります。
入院は数日程度が目安となります。
本症例ではご自宅での安静に心配があるとのことでしたので、1週間ほどの入院となりました。
入院期間に関しては様々な事情を考慮し、相談しながら決定していきます。
手術後1週間の段階では、まだ左足の負重が弱かったですが、
術後2週間程度の段階では、歩き方は正常なレベルに戻っていました。
パテラは普段の診察でも多く遭遇します。
グレード1~2の場合は経過観察で問題ないことが多いですが、グレード2で症状が伴う場合は手術が推奨されます。
グレード3を越えている場合は手術が強く推奨されます。
また、パテラが脱臼してしまう子は脱臼しない子に比べると前十字靭帯という膝の中の靭帯を切ってしまう(断裂してしまう)リスクが高くなります。
早期に整復しておくことで、前十字靭帯断裂の心配も少なくなります。
定期的に診察を受けて、チェックしていくことが重要な整形疾患と考えます。
心配な方は是非一度、身体検査を受けにいらしてください。
獣医師 藤田